不妊鍼灸のエビデンスについて
不妊症に対する鍼灸のエビデンス(科学的根拠)の代表的なものは、下記となります。
女性不妊に対する鍼灸の効果
女性不妊症の治療法としての鍼治療:ランダム化比較試験の系統的レビューとメタアナリシス
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35222669/
(Kewei Quanら、PubMed 2022年2月公開)
論文内容:2021年4月までのEMBASE、PubMed、コクランライブラリ、Web of Scienceなどの関連研究などデジタルデータベースから検索
真の鍼治療、プラセボ(シャム鍼)、無治療で27件の研究(7,676人)について臨床妊娠率(CPR)と生児出生率(LBR)を比較した。
結果:出生率(RR = 1.34; 95% CI (1.07, 1.67) ; P=<0.05)、臨床妊娠率(RR =1.43; 95% CI (1.21, 1.69)) ; P < 0.05)、
生化学的妊娠率 (RR = 1.42; 95% CI (1.05, 1.91); P < 0.05)、
継続妊娠率 (RR = 1.25; 95% CI (0.88, 1.79); P < 0.05)
要約:7,676人の女性不妊の患者を研究した27件の論文を調査した結果、臨床妊娠率は1.43倍、出生率は1.34倍、妊娠継続率は1.25倍に、鍼を行わなかった群に対して鍼を行った群が高かったということです。
この研究での不妊での鍼灸治療は、ほとんどが体外受精の胚移植の際の直前の治療を研究したものです。
体外受精以外の不妊症への鍼灸治療の効果を研究した代表的なものに下記があります。
生殖補助医療(ART)を受けていない不妊女性に対する鍼治療
体系的レビューとメタ分析
(Yun, Liu MDら Medicine 2019:98:29 e16463 2019)
論文内容:中国国内での体外受精を行っていない多嚢胞性卵巣による不妊女性1,070名、卵管因子による不妊(卵管閉塞、卵管狭窄性不妊)120名、排卵障害による不妊210名、その他の原因244名に対して、鍼灸単独あるいは鍼灸+排卵誘発などのグループと、鍼灸を行わず通常の排卵誘発などの治療を行ったグループで効果を比較した。(合計1,644名 実験群=鍼灸あり827名、対象群=鍼灸なし827名)
結果:多嚢胞性卵巣による女性不妊では、鍼灸を行っているグループが行っていないグループに比べ1.7倍妊娠率が高かった。排卵障害による不妊では鍼灸を行ったグループが2.65倍、その他の原因による不妊では2.06倍鍼灸を行ったグループの妊娠率が高かった。
電気鍼療法は成熟卵子の数と体外受精の受精率を高める
https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/acu.2019.1368
(Ayu Cintani Kusumaら Mary Ann Liebert 2019)
論文内容:体外受精を行っていた女性患者に対し真の電気鍼治療を行ったグループと、偽の鍼を行ったグループで排卵誘発を行った際の成熟卵子の獲得数や、受精率を比べた。
結果:卵の成熟度は真の電気鍼を行ったグループ(12名)で88%、偽の鍼グループ(12名)で71%。受精率は真の鍼グループで68.8%、偽の鍼グループで48.8%と、明らかに真の電気鍼を行ったグループに成熟卵子の獲得数向上と受精率の向上がみられた。真の電気鍼グループでは成熟卵子に向けて成長していくのを脱落するアポトーシス(細胞死)を促進するBaxタンパク質が低下(2.05×0.0000001)したのに対し、偽の鍼グループは(16.95×0.0000001)と高指数でした。また、アポトーシスを抑制するBCL-2タンパク質の出現は真の電気鍼グループで(16.05×0.0000001)と高かったのに対し、偽の鍼グループは優位に低値(11.10×0.0000001)でした。結果、各卵のアポトーシス(細胞死)指数は真の電気鍼グループで0.63、偽の鍼グループは83.95でした。
当院でも卵子の質の改善や胚盤胞の獲得数増加を目的に特定のツボに電気鍼を行いますが、成熟卵子を目指していた卵が途中で減らずに成熟して採卵数が改善したり、上記の研究結果やほかのエビデンスが示すように受精率が改善して胚盤胞になる率が向上するのだと考えます。
排卵障害女性の糖代謝及び月経周期に対する鍼の効果
https://www.jstage.jst.go.jp/article/onki/73/3/73_202/_article/-char/ja/
(清水洋二ら 日本温泉気候物理学会雑誌 第73巻3号2010年5月)
論文内容:成人女性33名を3ヶ月間基礎体温表を記録させ、
①月経周期日数が25日~38日(正常な月経周期)、②高温相の持続が10日以上、③高温相と低温相の差が0.3℃以上、④高温相に陥落 がない、⑤低温相から高温相への移行が3日以内。以上を対象群(正常群=6名)として、一方、3ヶ月中すべての周期で基礎体温表に高温期が見られない群(異常群=7名)に分け、1週に1回で1年間鍼を行った。
結果:異常群の月経周期 治療前平均110.8日(±124.7日) 治療後平均37.7日(±13.0日)へ改善
異常群の高温期日数 治療前0日 → 7.5日±4.5日へ改善
異常群における鍼灸治療前後の血糖の変化(75gOGTT)比較
30分値 治療前142.2±22.2 → 治療後119.8±26.8へ改善
120分値 治療前123.2±32.6 → 治療後94.2±18.7へ改善
異常群における血中インスリン濃度の変化(75gOGTT)比較
30分値 治療前74.2±50.0 → 治療後54.5±29.1へ改善
120分値 治療前55.0±17.5 → 治療後37.3±13.3へ改善
コメント(三瓶):インスリン抵抗性が背景にあるアジア人種型の多嚢胞性卵巣(PCO)で、3ヶ月以上高温期日数がない重症度が高い症例であると思われる。非常に難しい症例であるが1年の長期にわたって治療を行うとこのように改善する。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のみならず、糖尿病にも鍼灸が効果があるのがわかる。
以降、多数ありますので順次執筆します。