当院の治療の特色


当院の鍼灸治療について

当院の鍼灸治療は、独自の太極療法です。

治療方針を立てる上で、経絡治療や中医学的弁証論治を取り入れますが、当院で行っている治療法をあえて区分けすれば太極(たいきょく)療法という、体質や病状を細かなパターンに分けてツボを組み合わせる治療法です。

当院創始者・三瓶悌一は常時雇用していた数名の温泉マッサージ師と多数の湯治客を施術し、長年指圧マッサージすることにより体表のコリや陥凹、隆起や変形などから日本人の体質や様々な病状の特性を把握していったといいます。

病状の把握や治療方針の決定には脈診や舌診も積極的に用いますが、経絡治療や中医学的弁証論治ではありません。

 

当院での病状の診察と把握、説明について

当院では患者様の病状や治療方針の説明にはなるべく平易な説明を心掛け、難解な東洋医学的な言葉は使わず、西洋医学・現代医学的な説明を行うようにしています。

また診察では問診を非常に大切にし、必要があれば近郊の開業医や総合病院、あるいは遠くても大学病院へ紹介し連携をします。

問診などでは、福島県立医科大学・会津医療センターで総合内科学講座の総合診療を年に毎年一回福島県鍼灸師会の定期講習会で欠かさず学び、知識のアップデートをしています。

 

当院での不妊治療について

当院の鍼灸による不妊治療は、先代の三瓶悌一のころから行っていました。

『不妊治療・不妊症』という言葉があまり一般的ではなかった当時は『子宝はり』と言って行っていたようです。

現在は国内の有志鍼灸院が集まって『不妊鍼灸ネットワーク』を作り、仲間で様々な勉強会を行い、のちに『一般社団法人JISRAM(日本生殖鍼灸標準化機関) 』となった後でも院長・三瓶真一は副会長を長年務め、現在は監事(監査役)を行っています。

当院ではJISRAMで得たエビデンスのある不妊治療を鍼灸で提供します。

 

当院で実施している鍼灸治療について、患者様には下記の通り説明をしています。

 

 

鍼灸治療のエビデンス(科学的根拠)

痛みに対しての鍼灸治療の効果の根拠 →

・鍼灸刺激はポリモーダル受容器をはじめとする各種感覚受容器を興奮させ、鎮痛効果をもたらす。

・鍼灸の鎮痛機序には、末梢の血流改善、脊髄後角でのゲートコントロール、上位中枢からの下降性抑制系が関与する。

・各種内因性オピオイドが末梢性・中枢性に関与する。

・広汎性侵害抑制調節(DNIC)の機序により、鍼灸刺激の即時的鎮痛現象を説明することができる。

 

 

鍼灸による筋肉の血流改善の効果の根拠 →

  • ・鍼灸による体性感覚刺激による筋肉の血流調節の仕組みには、1)脳を介する全身性反射調節、2)脊髄を介する脊髄性反射性調節、3)軸索反射による局所性調節、高位中枢を介する調節などがある。
  • ・鍼通電(電気鍼)刺激の全身性筋血流の神経機序として、交感神経α受容体を介して腎臓を含めた内臓血流の増大や減少を起こすことにより、血圧の下降または上昇させて間接的に皮膚および筋血流を増減する。
  • ・鍼灸刺激による(ツボなど)局所の血流増加は、(ツボなどの鍼灸刺激による)体性感覚神経刺激による軸索反射機転によるもので、CGRPを介して筋血流を増加させる。

 

 

鍼灸による神経血流の増加による効果の根拠 →

・アドレナリンによる神経収縮 → 末梢の血流減少
末梢神経血管の血管収縮神経には、アドレナリン作動性の神経繊維が存在すると言われている。
この神経が活動すると、神経末端よりノルアドレナリンが放出され、血管平滑筋のα受容体に作用して血管を収縮させ、局所神経血流を減少させる。
逆にこの神経の活動が低下すると血管は緩んで拡張し、局所神経血流は増加する。

・血管拡張神経の活動 → 神経血管の拡張
血管拡張神経には遠心性のコリン作動性血管拡張神経と求心性の血管拡張神経があると考えられている。
求心性の血管拡張神経は、求心性神経の逆行性興奮によって起こるもので、軸索反射機転によるものと考えられている。
すなわち、逆行性興奮により求心性の神経末端からカルシトニン遺伝関連ペプチド(CGRP)が分泌され、それが末梢神経血管のCGRP受容体に作用して血管を拡張させる。

 

特にしびれや冷えなどの改善=末梢神経血管の神経性調節

・アドレナリン作動性の血管収縮神経の末端からノルアドレナリン(N A)が分泌され、血管のα受容体に作用すると末梢神経血管は収縮して局所神経血流は減少する。
・一方、コリン作動性の血管拡張神経の末端からはアセチルコリン(ACh)が分泌され、ムスカリン受容体に作用すると末梢神経血管は拡張して局所神経血流は増加する。
・求心性神経を逆行性に興奮させる軸索反射機転により神経末端からCGRPが分泌され、CGRP受容体に作用すると末梢神経血管は拡張して局所神経血流は増加する。

 

 

鍼灸が脳血流に及ぼす作用 →
・脳局所血流は代謝性調節と神経性調節がある

・麻酔ラットにおいて顔や手足への鍼灸刺激は大脳皮質局所血流を増加させることが示されている。子の機序には頭蓋内のコリン作動性血管拡張神経が関与する。

・健常者において手足の経穴(ツボ)への鍼刺激が脳血流を増加させることが示されている。

・脳循環障害に対する鍼灸治療の効果の機序の一つに、脳循環改善作用が考えられている。

  

↑トップへ 

なぜ鍼灸治療が痛みに効果があるのでしょうか?

 

腰痛など痛みを主とする症状で鍼灸治療を行うと、薬や注射などを使っていないにも関わらず治療直後に痛みが軽減したり消失する場合があります。

慢性痛は、『ガンやリウマチなど明らかな原因疾患を除き、痛みを起こす原因が解決しているにも関わらず現れる痛み』のことを言います。このような痛みの場合、痛みが心理的なストレス増大や患部の血行を悪化させて、新たな痛みの出現を起こします。

このような痛みには鍼灸治療が効果があり、痛みを伝える神経を鍼刺激により遮断させたり、痛みを感じている脳の中枢でモルヒネ様の物質を分泌し、痛みを軽減させたりします。

 

痛みに対しての効果は、下記のように主な4つの働きがあります。

 

1)ゲートコントロール説と鍼鎮痛 (脊髄レベルでの痛みの遮断)

修正ゲートコントロール説

触圧覚を伝える太い神経線維(Aβ繊維)の興奮は脊髄後角SG(膠様質)にある抑制性介在ニューロンを興奮させ、T(伝達)細胞を抑制することで、痛みを伝える細い神r経(Aδ、C繊維)からの侵害性興奮が上位中枢(脳の痛みを伝える中枢=視床など)へ伝わることを抑制する。

出展 : Melzack R, Wall PD : The Challenge of Pain , Penguin Books, London, 222-239,1982

 

 

2)広汎性侵害抑制調節(DNIC)の関与による痛みの緩和 (脳など中枢レベルでの痛みの遮断)

痛み刺激を伝える脊髄後角や、三叉神経脊髄路核の広作動域ニューロンと呼ばれる侵害受容性ニューロンの興奮活動が、全身の様々な組織への(鍼や灸などの)様々な侵害刺激によって抑制される。この痛みの緩和現象はナロキソンの投与で抑制され、脳の部分的破壊後に再現できないことからSRD(延髄背側網様亜核)や視床内側下核の関与が考えられている。

出展 : Le Bars D , Dickenson AH , Besson JM : Diffuse noxius infibitory controls (Dnic)  I. effects on dorsal horn neurons in the rat. Pain 6 : 283-304 1979 / Bing Z, Villanueva L, Le Bars D : Acupuncture and diffuse noxious inhibitory controls - naloxone - reversible depression of activities of trigeminal convergent neurons. Neuroscience 37, 809 - 813, 1990

 

↑トップへ 

3)鍼刺激における内因性オピオイドの関与による痛みの緩和 (脳内でのモルヒネ様物質の分泌)

鍼による鎮痛効果を論じるとき、鍼麻酔を抜くことはできない。文化大革命後、中国で行われていた鍼麻酔による外科手術は、政治的なパフォーマンスはあったがその鎮痛効果はオピオイド(脳内モルヒネ)受容体拮抗薬であるナロキンソンの投与で抑制されることが分かり、これは鍼刺激により脳内にモルヒネ様物質が産生され、これが鍼麻酔の科学的根拠になった。

出展 : Chen XH, Han JS : Analgesia induced by electroacupuncture of different frequencies is mediated by different types of opioid receptors : another cross - tolerance study. Behav Brain Res 47 : 143-149 1992

 

 

4)鍼刺激部位の疼痛抑制 (トリガーポイント)

鍼の刺激部位としての経穴(ツボ)の状況は、索状の硬結(スジばり、こり)や圧痛が存在する。このような特徴は筋筋膜性疼痛患者に見られる、いわゆるトリガーポイントによくみられる。この経穴に鍼刺激を行うとトリガーポイントを不活化させ鎮痛効果をもたらす。

出展 : Sekido R, Ishimaru K, Sakita M : Differences of erectroacupuncture - induced analgestic efffect in normal and inflammatory conditions in rats. Am J Chin Med 31 : 955 - 965, 2003 / Bardry PE : トリガーポイント鍼療法(川喜多健司訳) 医道の日本社 , 77 - 107 1995 / 川喜多健司:侵害刺激としての鍼刺激 - ポリモーダル受容器仮説-, 鍼灸の科学, 医歯薬出版, 395 - 408 , 2000 

 

 

↑トップへ 

単に痛み止めだけではない、筋肉の血行を改善して患部の疲労回復や修復を早める鍼灸の働き

 

鍼灸治療は筋肉などの血行を改善し、慢性の疲労による痛みや、たとえばスポーツ選手のトレーニングの疲労回復などに役立っています。

先に書いた痛みに対する鍼灸の効果は麻酔的な効果もあり、下で説明する血行改善の効果は、痛みのもとになっている血行不足や、損傷している筋などの回復の効果を示唆します。

 

慢性の疲労などによる痛みに対する鍼灸の効果

1)坐骨神経痛患肢患部の皮膚温上昇効果

筋の持続的緊張や疲労により筋に代謝産物が蓄積されると、筋に分布する侵害受容器が興奮して痛みを起こすが、その際に筋支配の交感神経が反射性に興奮し、筋の血行を悪化させ、痛みが増悪する。このような場合、筋の虚血を改善することにより。痛みの改善が軽減する。

こうした筋疲労や筋の持続的緊張に、よる筋肉痛などの痛みについて、鍼灸治療が有効で良く当院にも来院する。 木下晴都(1915~1997)らは、坐骨神経痛症状を呈する患者の疼痛部筋への鍼灸刺激により患部の筋肉度が上昇することから、筋血流増加を推定している。

出展: 木下晴都 : 局所疼痛に対する針作用の実験的研究, Ⅰ: 皮膚温 , 筋肉温 , 脈波から検した疼痛に対する針灸の作用機序 , 昭和医学会誌 41: 147 - 156 , 1981

 

 

2)下腿部鍼刺激による下腿血流量の増加

松本勅らはストレインゲージプレチスモグラフィーにより下腿の血流を測定し、下腿部の鍼刺激により下腿の血流が増加することを報告している。

出展: 松本勅 , 篠原昭二 , 池内隆治ら :鍼刺激によるヒト下腿血流の改善 , 明治鍼灸医学 , 6 : 83 - 87 , 1981

 

 

3)動物実験による鍼通電後筋血流量増加

北島敏光らは水素クリアランス方により、イヌの足三里への鍼通電刺激で後肢の筋血流が増加する事を報告している。

出展: 北島敏光 , 緒方博丸 : 硬膜外脊髄通電と針通電刺激による組織血流量 , ペインクリニック ,10 : 472 - 476 , 1989

 

↑トップへ 

4)ヒト血管支配交感神経への関与

鍼刺激は自律神経系に様々な反射性反応を起こすことが知られており、鍼刺激みよる筋血流の増加には筋支配の交感神経が関与していると予想される。実際に鍼刺激はヒト筋血管神経支配の交感神経に反射正反応を起こすことが報告されている。

出展: 森山朝正: 鍼刺激によって人の筋交感神経活動が初期にexcitation , 刺激中にinhibintion を起こす現象の微小神経電図法による検討 , 日本生理学会雑誌 , 49 : 711 - 721 , 1987 / Sugiyama, Y . , Xue, YX ,.Mano, T : Transient increase in human muscle sympathetic nerve activity during manual acupuncture . Jpn . J Physiol . ,45 : 337 - 345,1995

 

 

5)鍼灸刺激によって起こる全身性筋血流改善の神経性機序

麻酔動物を用いて鍼通電刺激による反応をレーザードップラー血流計で観察すると、後肢足蹠への1.2mA以上の鍼通電刺激で強度に依存した大腿二頭筋血流の増加反応が出現する。

出展: Noguchi, E , Osaw H , Kobayashi S , Shimura M , Uchida S , Sato Y , : The effect of electoroacupuncture stimulation on the muscle blood flow of the hindlimb In anesthetized rats : J Auton Nerv Syst 75 : 78 - 86 1999 / 野口栄太郎 , 小林聡 , 大沢秀雄 , 山口真二郎 , 佐藤優子 : 鍼通電刺激によるラット皮膚血流の変化とその神経性機序 -筋・腎血流との比較- : 自律神経 37 , 440 - 448 , 2000 /  野口栄太郎 , 小林聡 , 大沢秀雄 , 佐藤優子 : 鍼通電刺激に皮膚および筋血流反応の神経性機序 : 自律神経 37 , 625 - 627 , 2000

 

レーザードップラー血流計を用い下腿三頭筋の血流を測定し、後足蹠に電子灸刺激装置で透熱灸様の熱刺激を加えた際にも、鍼通電と同様の筋血流増加が下腿三頭筋でも起きる。

出展: 野口栄太郎 , 大沢秀雄 , 森秀俊 , 坂井友実 : 麻酔ラットにおける灸様熱刺激による骨格筋局所血流の変化とその神経機序 : 自律神経 41 , 423 - 430 , 2004

 

 

上記1)~5)の実験時に同時に腎血流の一過性減少を認めたが、ともに交感神経α受容体遮断薬(フェントラミン)を投与するとこの腎血流減少は起きない。つまり鍼灸刺激(鍼通電刺激、電子灸刺激)は交感神経α受容体を介して腎臓を含めた内臓の血流を減少または増加を起こし、血圧の変化を起こさせたことにより筋血流を増加させたものと考えられる

出展: 野口栄太郎 , 小林聡 , 大沢秀雄 , 内田さえ ,志村まゆら , 佐藤優子 : 鍼通電刺激によるラット骨格筋血流増加反応の神経性調節機構 : 自律神経 36 :56 - 64 , 1999 

 

 

6)鍼灸刺激によって起こる刺激局所(ツボ)の神経性機序=ツボの鍼灸刺激による局所の血管拡張について

Jansenら(1989)は皮弁における血流の測定で、サブスタンスP(SP)やカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)投与時と同様の皮弁部の皮膚血管血流増加反応が、皮弁基部への鍼通電刺激で起きることを報告し、鍼刺激局所で血管拡張物質を介する血増加反応の存在を示唆している。

出展: Janse G , Lundeberg T ,Klaratansson J ,et al : Acupuncture and sensory neuropeptides Increase coetaneous blood flow in rats . Nuroscience Letters 97 : 305 - 309 , 1989

 

↑トップへ 

しびれや、手足指末端の冷えに関してなぜ鍼灸は効果があるのか?=鍼灸による末梢神経系の血行改善

 

まず最初に末梢神経の血管支配について

身体各組織には、必ず酸素と栄養が血管を介して供給される。

末梢神経の場合も同様で、その全長にわたって血管が豊富に分布しており、エネルギーとしての酸素と栄養を供給する末梢神経に分布する血管は、神経の血管ということから vasa nervorum とよばれており、近くを走行する動脈より分岐して神経に達し、血液を送る。

すなわち末梢神経の血管は栄養動脈である。

なお末梢神経には、坐骨神経のように長い神経があるが、そのような場合は多数の栄養動脈から支配を受けている末梢神経の栄養動脈は、神経上膜表面を貫いて神経内に入り、神経内部で多数の網状の吻合を作りながら分岐する。

そして神経線維束を囲む周囲膜内やそのまわりに血 管網をはりめぐらす. そこから分岐した血管は神経線維束内部に貫入し、神経内膜の 中で毛細血管床を形成する。

出展: 佐藤昭夫, 佐藤優子, 五嶋摩理:自律神経生理 学, 金芳堂, 94-96, 1995

 

このように末梢神経血流は解剖学的に 神経上膜血流 (extrinsic system)と神経内膜血流 (intrinsic system) の2つのシステムからなり、両者は豊富な吻合によ って結合している。しかしこの2つのシステムは互いに独立しているとする説 (haemodynamic model) と、 互いが密接な関係にあるとする説 (regional model) とがある。

この点に関して水素クリアランス法を用いた研究では、神経上膜血流と神 経内膜血流とが密接に関連して血流を調節 していることが確認されていることから、 regional model が有力視されている 。

出展: 木原幹洋,  Low,PA: 末梢神経の血流調整-α受容体および加齢の役割。自律神経 30,326 - 329, 1993

 

神経血流の神経性調節について
末梢神経が正常に機能するには血流が正常に保たれることが必要である。末梢神経血流は一般的には血圧に依存しており、血圧変動によって影響されるが局所神経血流は常に血圧に依存して変動するとは限らず、神経性や代謝性にも調節されている。ここでは、末梢神経血管の神経性調節の機序について簡単に紹介する。
末梢神経血管の血管収縮神経には、アドレナリン作動性の神経線維が存在するといわれている。この神経が活動すると,、神経末端よりノルアドレナリンが放出され血管平滑筋のα受容体に作用して血管を収縮させ、局所神経血流を減少させる。逆にこの神経の活動が低下すると血管は緩んで拡張し、局所神経血流は増加する。
一方、血管拡張神経が活動すると神経血管は拡張し、神経血流は増加する。
現在のところ、血管拡張神経には遠心性のコリン作動性血管拡張神経と求心性の血管拡張神経があると考えられている。

出展:  佐藤昭夫, 佐藤優子, 五嶋摩理:自律神経生理 学, 金芳堂, 94-96, 1995 /  木原幹洋,  Low,PA: 末梢神経の血流調整-α受容体および加齢の役割。自律神経 30,326 - 329, 1993  / 佐藤昭夫, 丹澤章八, 西條一止ほか : 末梢神経の血流の神経性調節, 厚生省特定疾患スモン調査研究班, 平成4年度研究報告書, 159-161, 1993 / Zochdne DW, Low PA: Adrenergic control of nerve flow.Experimental Neurology 109, 300-307, 1990 / Sato A, Sato Y, Uchida S : Blood in the sciatic nerve is regulated by vasoconstrictive and vasodilative nerve fibers originating from the ventral and dorsal roots of the spinal nerves.  Neuroscience Research 21, 125 133, 1994

 

求心性の血管拡張神経は、求心性神経の逆行性興奮によって起こるもので、軸索反射機転によるものと考えられている。すなわち逆行性興奮により求心性の神経末端からカルシトニン遺伝子関連ペプタイチド(CGRP)が分泌され、それが末梢神経血管のCGRP受容体に作用して血管を拡張させる。

 

↑トップへ 

1)ウサギ坐骨神経幹内の神経血流に及ぼす鍼の影響
植木は、成熟家兎を対象にペントバルビタール麻酔下で坐骨神経幹内の神経血流に及ぼす鍼の影響を水素クリアランス法で測定した。
鍼刺激は測定肢の同側の腰部(第七腰椎と第1仙椎の棘突起間の外方1cm)に10mm刺入し5mmの振幅の雀啄を10回行った後に15分間の置鍼とした。
その結果、対照群(無刺激郡)は時間経過にともなって減少傾向を示したのに対して、鍼刺激郡においては鍼刺激中から増加を示し、鍼刺激45分においてもなお増加を示したと報告した。

出展: 植木正人:家兎坐骨神経幹内の循環動態に及ぼす鍼刺激の影響  明治鍼灸医学 14,79-88,1994

 

 

山口らは家兎を用いて、鍼刺激L3/L4 ACP群(測定肢と同側の第3と第4腰椎棘突起間の外方1cmの部位に10mm刺入)、鍼刺激L7/S1 ACP群(測定肢と同側の第7腰椎と第1仙椎の棘突起間の外方1cmの部位に10mm刺入)と対照群(無刺激群)とを比較した。なお鍼刺激は植木と同様に5mmの振幅の雀啄術を10回行った後に15分の置鍼とした。その結果、鍼刺激群いずれもが対照群に比べて神経血流は増加を示したと報告した。

出展: 山口大輔、松本勅:家兎腰部鍼刺激が坐骨神経幹の血流に及ぼす影響   全日本鍼灸学会誌47,165-172,1994

 

 

2)ウレタン麻酔下ラット坐骨神経の神経血流に及ぼす鍼刺激の影響

井上らは、ラットを対象にウレタン麻酔下で坐骨神経の神経血流に及ぼす鍼刺激の影響をレーザードップラー血流計を用いて測定した。鍼刺激は測定肢の反対側の第6腰椎近傍に10mm刺入し、回旋術または置鍼180秒間行ったところ、置鍼刺激ではまったく変化がみられなかったが、回旋鍼刺激で一過性の増加を示した例は28例中12例に、やや減少は6例に、無変化は10例にみられたとし、心拍数および血圧もこれらの反応と同様であったと報告した。

出展:  井上基浩, 勝見泰和, 川喜田健司ほか : 坐骨神経幹の循環動態に及ぼす腰部鍼刺激と坐骨神経電気刺激の影響. 全日本鍼灸学会誌 48, 130-140, 1998

 


なお、血圧上昇のみられなかった場合においても神経血流が増消した例も観察されたことから、軸索反射によるCGRPの関与やコリン作動性の血管拡張神経の関与を示唆した。また、矢野忠らは鍼通電刺激の神経血流に及ぼす影響について麻酔ラットの坐骨神経を対象に検討した。

鍼通電刺激は微動を引き起こし、ノイズを発生させることから腰部などの測定部位の近位部位への刺激が困難なため、測定肢側の反対の足部への鍼通電刺激30秒間とした。

通電刺激は1mAで1Hzまたは5Hzの低頻度刺激と20Hzまたは100Hzの高頻度刺激とした。

その結果、1mAの低頻度刺激では神経血流は変化せず、高頻度刺激では増加した。しかも、神経血流の増加と血圧上昇が共に観察されたことから、神経血流の増加は血圧依存性によるものと考えられた。そこでフェントラミン(非選択性α受容体遮断剤)を投与して鍼通電刺激を行ったところ、血圧上昇反応と併せて神経血流の増加反応が消失したことから、鍼通電刺激による神経血流の増加反応は交感神経活動による血圧上昇に伴うものと考えられた。

 出展: 矢野忠,石崎直人, 福田文彦: 神経血流に及ぼす鍼通電刺激の影響について. 日温気物医 61, 141-147, 1998

 

 

以上が実験動物を対象とした鍼刺激あるいは鍼通電刺激による坐骨神経の神経血流に及ぼす影響に関する研究成果である。対象動物、測定方法あるいは刺激部位や刺激方法の違いはあるが、概ね鍼刺激あるいは鍼通電刺激により神経血流は増加傾向にあることが示唆された。残念ながら病態モデル動物での研究成果がないこと、麻酔動物の成果をそのままヒトに外挿することの問題点はあるものの、ヒトの神経障害に対する臨床効果の機序を考察するうえでこれらの研究成果は役立つものである。

 

 

 

↑トップへ 

3)まとめ:臨床効果との関係
末梢神経障害、例えば絞扼神経障害や neuropathy などによる痛みや痺れなどの異常知覚に対して、鍼灸治療はしばしばよく奏効する。その機序のひとつとして、 神経血流の増加が関与しているのではないかと考えられる。例えば動物実験ではあるが、糖尿病性神経障害の病態モデル動物において神経血流の低下が指摘されており、薬物投与で神経血流を改善させると神経伝達速度全が回復したとの報告がある。
実際には糖尿病性神経障害患者の神経障害 (疼痛や異常知覚)に対する鍼治療、鍼通電療法あるいはTENSが効果的であったと報告されている。

出展:  Kihara M,Schmelzer JD,Poduslo JD et a Aminoguanidine effects on nerve blo flow, vascular permeability, eldicals.Proc N Acad Sci USA 88, 6107-6111, 1991

 

 

 

鍼灸が脳血流に及ぼす作用について 鍼灸による脳血流改善

 

脳血流の代謝性および神経性調節について、脳局所血流は、主に代謝性調節と神経性調節を受ける。

 

1)代謝性調節
脳の特定部位の神経活動が高まると、その部位の代謝が亢進し、その結果生じた化 学物質が局所の血管を拡張させて、その部位の血流を増やす 1976年に Ingvar は、ヒトの大脳皮質の局所血流をキセノン法を用いて測定し、手の感覚刺激や運動、会話や読書などにより各機能に関連した部位で局所血流が増加することを見出したが、この局所血流の増加は代謝性調節と説明されている。

 

2)神経性調節
脳局所血流は自律神経や三叉神経求心性神経による頭蓋外神経と、脳内の神経核に起始する頭蓋内神経による調節を受ける。脳表面の軟膜血管は頭蓋外神経支 配を強く受けるのに対して、脳実質内の微小血管は頭蓋内神経支配を強く受ける。
脳血管を支配する交感神経は、α受容体を介して血管収縮性に、β受容体を介して血管拡張性に作用する。脳血管を支配する副交感神経は一酸化窒素(NO: nitric oxide) を介して血管拡張性に作用する 。 脳血管に分布する感覚神経である三叉神経を血管に向けて逆行性に刺激するとカルシトニン遺伝子関連ペプチド (CGRP: calcitonin gene - related peptide) 体を介して脳血管は拡張性に調節される。
大脳皮質の実質内微小血管には、前脳基 底部マイネルト核、 背側縫線核、 青斑核に起始する頭蓋内神経が分布する。 前脳基底部のマイネルト核に起始するコリン作動性神経はアセチルコリン受容体 (ムスカリン受容体とニコチン受容体)、 およびNOを介して血管拡張性に作用する。背側縫線核に起始するセロトニン作動性神経や青斑核に起始するノルアドレナリン作動性神経は、血管収縮性に作用する。

 

3)血圧変動にともなう調節
脳血管は血圧が低下すると拡張し、血圧が上昇すると収縮して、ある範囲内で血圧が変動しても脳血流が一定に保たれるように自己調節がはたらく。しかし秒単位で起こる急激な血圧変動には自己調節が追随できないため、血圧の変動に依存して脳血流が二次的に変化する。 

出展: 佐藤昭夫,佐藤優子,足立健彥:前腦基底部の コリン作動性神経による脳循環調節神経科学 レビュー 6:205-229, 1992 / Sato A, Sato Y Regulation of regional cerebral blood flow by cholinergic fibers originating in the basal forebrain. Neurosci Res 14:242 - 274, 1992

 

 

■麻酔動物において鍼刺激が脳血流に及ぼす効果
ウレタン麻酔下のラットを用いて鍼や灸刺激が、大脳皮質局所血流に及ぼす効果が調べられている。
出展: Uchida S, Kagitani F, Suzuki A, et al: Effect of acupuncture - like stimulation on cortical cerebral blood flow in anesthetized rats. Jpn J Physiol 50: 495-507, 2000 / Uchida S, Suzuki A, Kagitani F, et al: Effect of acupuncture like stimulation on cortical cerebral blood flow in anesthetized 002q rats. International Congress Series 1238 : 89-96, 2002 / Uchida S, Suzuki A, Kagitani F, et al: Effect of moxibustion stimulation of various skin areas on cortical cerebral blood flow in anesthetized rats. Am J Chin Med 31: 611 - 621, 2003

 

麻酔をかけることで、 鍼灸刺激で起こる意識や情動の影響を取り除くことができる。大脳皮質局所血流をレーザードップラー血流計で連続測定し、鍼を皮膚から筋に刺してマニュアルの鍼刺激を1分間加えると、頬、前肢足蹠、後肢足蹠の刺激により全身血圧の上昇をともなって大脳皮質局所血流が増加する。胸部への刺激ではほとんど変化しない。 鍼通電刺激や灸刺激でも、同様の結果が認められている。
出展: Uchida S, Kagitani F, Suzuki A, et al: Effect of acupuncture - like stimulation on cortical cerebral blood flow in anesthetized rats. Jpn J Physiol 50: 495-507, 2000 / Uchida S, Suzuki A, Kagitani F, et al: Effect of moxibustion stimulation of various skin areas on cortical cerebral blood flow in anesthetized rats. Am J Chin Med 31: 611 - 621, 2003

 

鍼刺激による大脳皮質血流増加反応は血圧変動が起こりにくい実験モデルでも起こるので、血圧に依存しない反応が含まれると考えられる。一側の鍼刺激で体性感覚野のある対側の頭頂葉血流が増加するだけでなく、同側の頭頂葉血流や前頭葉や後頭葉の広い皮質領域で同程度の血流増加が起こることから、代謝性の血流増加の機序は考えにくい。

前肢鍼刺激による大脳皮質局所血流増加反応は、脳血管支配の自律神経の外科的切断や、アドレナリン受容体の薬理学的遮断による影響を受けない。しかし 同反応は、前脳基底部の両側性破壊やムスカリン受容体とニコチン受容体遮断薬の投与によって抑制される。 さらに、前肢足蹠への鍼刺激中には大脳皮質の細胞外アセチルコリン (ACh) 放出量が増加する 。したがって鍼刺激は前脳基底部マイネルト核からのコリン作動性神経をはたらかせて、大脳皮質にAChを放出し、ムスカリンとニコチン受容体を介して脳血流を増加させると考えられる。
鍼は皮膚と筋肉に刺しているので、皮膚と筋の感覚神経を介して脳血流に影響を及ぼすことが予想される。前肢足蹠に分布する体性感覚神経である橈骨神経、尺骨神経、正中神経を腕神経叢で切断して、鍼刺激による感覚情報が中枢神経系へ伝わらない状態にすると、鍼刺激による脳血流増加反応 は完全に消失する 。
また、これらの体性感覚神経の求心性活動を記録すると、前肢足蹠の鍼刺激により、どの神経も興奮する。この結果から鍼は刺激部位に分布する体性感覚神経を興奮させて情報を伝え、脳血流増加を起こすと考えられる体性感覚神経はI~IV群線維よりなるが、この脳血流増加には III群と Ⅳ群線維の関与が大きいことが鍼通電刺激を用いて刺激強度を変えて調べた実験により、明らかにされている。
鍼刺激による大脳皮質血流増加反応はオピオイド受容体遮断薬投与の影響を受ないことから、鍼鎮痛とは異なる機序による反応である。

 

 

■ヒトにおいて鍼刺激が脳血流に及ぼす効果
Bäckerらは健常者の中大脳動脈の経血流速度を経頭蓋超音波ドップラー法で測定し、合谷へのマニュアル鍼刺激の効果を調べている。一側の合谷への鍼刺激は5秒間の鍼刺激中および刺激終了後約15秒にわたって両側の中大脳動脈血流速度を上昇させる。血圧は鍼刺激中に一過性に上昇した後にむしろ低下するため、中大脳動脈の血流速度上昇反応は血圧に依存しない反応が含まれると考えられる。
出展: Bäcker M, Hammes MG, Valet M et al: Different modes of manual acupuncture stimulation differentially modulate cerebral blood flow velocity, arterial blood pressure and heart rate in human subjects, Neurosci Lett 333 203-206, 2002

 

PET (positron emission tomography:陽電子放射断層撮影)やfMRI (functional magnetic resonance imaging: 機能的核電磁気共鳴画像撮影)を用いて脳局所血流を測定し、鍼刺激の影響を調べた報告もある。PETを用いたHsiehらの研究では、合谷へのマニュアル鍼刺激により前帯状回や島皮質などの領域で血流が増加することが認められている。
出展: Hsieh J - C, Tu C - H, Chen F-P et al: Activation of the hypothalamus characterizes the acupuncture stimulation at the analgesic point in human : a positron emission tomography study. Neurosci Lett 307: 105-108 2001

 

PETよりも短時間で血流を測定できる fMRIを用いたZhangらの研究では、足三里と三陰交への鍼通電刺激により多くの被検者で対側の視床・一次体性感覚野・前帯状回・頭頂連合野、両側の二次体性感覚野や島皮質などの領域で血流増加が認められている。
出展: Zhang W-T, Jin Z, Cui G - H et al: Relations between brain network activation and analgesic effect induced by low vs, high frequency electrical acupoint stimulation in different subjects: a functional magnetic resonance imaging study, Brain Res 982 138 - 178, 2003

 

これらの脳領域は触覚や痛覚の認識や情動にも関連することから, 神経活動にとも なって代謝性に血流が増加した反応であると説明されている。麻酔ラットで見出された結果をそのままヒトにあてはめること は難しいと考えられる。しかし, 脳局所の血流が代謝と一致しないとの報告もある。
麻酔ラットで見出された鍼刺激によるマイネルト核コリン作動性神経を介した脳血流増加がヒトにおいても認められるか、今後更に研究する必要がある。
出展: Hoshi Y, Onoe H, Watanabe Y et al: Non synchronous behavior of neuronal activity, oxidative metabolism and blood supply during mental tasks in man. Neurosci Lett 172 129 133, 1994UR

 

 

■臨床効果との関係
脳血流が何らかの原因で低下あるいは不足すると、意識障害や運動障害,認知障害 など様々な障害が起こる. これらの障害の改善に,鍼灸治療が効果を示す例が知られている。ヒトで脳卒中の後遺症の運動麻痺に対して使われる鍼刺激部位 (経穴)は顔面や手足にあり麻酔ラットの研究で脳血流が増加した刺激部位と一致する。したがって、脳循環障害にともなう症状の改善に用いられる鍼灸治療効果の機序のひとつに、脳循環の改善が関与する可能性が考えられる。
出展: 代田文彦, 出端昭男: 図説東洋医学-針灸治療 編,学習研究社,1-342,1989

 

以降執筆中・・・

 

↑トップへ 

,