たまにはお仕事の話を。
体外受精を行うには、人為的に卵巣から卵を採り(採卵=”さいらん”=といいます)、同時に採取した精子と受精させ、3日~5日くらい培養して卵子を成長させ、子宮が受精卵を受け入れる最適な状態のときに、子宮に受精卵を入れる(胚移植=”はいいしょく”)を行います。
その際、採卵を行うには通常、何らかの薬や注射を行って排卵誘発を行います。勝手に排卵しないように、卵が成長してきたら、排卵を抑制しながら卵が成熟したころを見計らって、超音波で内診しながら特殊な注射針を使い、卵を吸い取ります。
なお、卵は受精してから『卵子』と呼びます。受精前は『卵』と呼びます。
そうすると、鶏卵でも有精卵は『卵子』といわないと、かもです。
脱線しましたが、排卵誘発を行う際に、効果的に卵は育って採れそうかどうか、月経開始日3日目あたりで血液検査を行います。
月経開始ゼロ日目から数えるので、月経日が治療周期開始の基準日になります。また月経開始3日目は、卵巣を働かせるホルモン(FSH=卵巣刺激ホルモン)や、成長しかけの小さな卵から出てくるホルモン(E2=エストラジオール=エストロゲン=女性ホルモン)を測ります。
また参考的に、P4(プロゲステロン=黄体ホルモン)も測ります。
育った卵子は別名を『胚(はい)』とも呼び、子宮に戻すことを胚移植(はいいしょく)といいますが、特に培養5日目付近以降の胚盤胞(はいばんほう)と呼ばれる、子宮に着床する寸前の卵は、子宮が受け入れて着床できる期間が大変短く、半日もありません。
そのため、卵を育てる判断を行う排卵誘発の基準日(月経開始3日目)以外に、胚移植のためにも基準日を設けてその絶妙なタイミングを推定します。
それにはP4=黄体ホルモンを測ります。
P4が高すぎれば排卵した(と同じ)、基準日を過ぎてしまい、着床に最適な胚移植日を想定できず、無理に移植すればせっかくの良い胚が無駄になってしまうことがあります。
もし胚移植直前にP4が高すぎれば、その周期は胚移植せず、次の周期以降にまた採血して移植日を決めることになりますが、これが何度も続く方がいます。
人により排卵日が早い(月経周期が28日より早い)方がいて、その場合は採血する時期を早くするなどして、胚移植日も早くするようです。
問題は、月経開始日3日あたりでP4が高い場合は、前の周期で排卵しそこなった遺残卵胞の影響や、卵巣の老化などが疑われます。
胚移植直前の測定でP4が高くて胚移植キャンセルというのは、残念ではありますが、また最適な時期を選んで移植することで良い結果を得られる場合が多いですので、あまり心配はありません。
D3あたりのP4の基礎値が高いような場合は、鍼灸治療などで卵巣の若返り治療を行っていくと良いようです。