「不妊症・子宝治療」カテゴリーアーカイブ

PCO(多嚢胞性卵巣)症候群への鍼灸の対応

すでに昨年の12月に私が所属する福島県鍼灸師会で講演させていただいた資料から、多嚢胞性卵巣(症候群=PCOS)について書いてみたいと思います。

月経の周期が長い、ひょっとすると3ケ月くらい月経がない。

その都度、産婦人科で注射や薬を服用し、やっと月経が来る、という方は多いものです。しかも30歳前後、もっと若めの女性で多いです。

ただ月経が遠くて不順なだけではなく、結婚すると妊娠しにくい原因となり、下記などのように何かと問題に なります。

  1. 排卵の予測が難しく、自然妊娠しにくい場合が多い(自然に排卵する場合)
  2. そもそも排卵しない=月経もない
  3. 不妊治療では排卵誘発に過剰に反応しやすい(多胎、OHSSなど)
  4. せっかく妊娠しても流産率が高い

当院など、鍼灸院に来院する患者さんでは下記のような事情を抱えて来院する方が多いです。

  1. クロミッドで卵胞発育があったものが、だんだん薬剤増量でも卵胞が発育しなくなったようなケースが多い
  2. hMGなどの注射や、経口薬でも増量すると多く卵胞が育ってしまい、その周期は治療中断となることがある
  3. 病院などで濃厚な治療を受けたのちの、低反応卵巣なども多い
  4. 年齢的には早発閉経を疑う場合がある
  5. 病院などでの治療が長期にわたることが多い

このような方には、当院では漢方でいう『瘀血(おけつ)』や『痰湿(たんしつ)』という証で、なるべく月経の周期が整うよう治療をすすめていきます。

下は昨年12月の講義で使用したスライドの1部です。

当院では患者さんの不妊歴も考え、3ヶ月~6ヶ月鍼灸治療を行った後、専門医を紹介し医療と併用で治療を続けます。

古い教科書には、多嚢胞性卵巣は男性化、肥満、多毛などの特徴があると書かれているものが多いですが、実はコメを主食とするアジア人種では欧米型の教科書のようなPCOの方は少なく、インスリン抵抗性体質のような隠れ糖尿病体質が関係するといわれています。

実際に、専門医から糖尿病の薬であるメトグルコを処方されている方も多いです。太ってもいない方が大半ですが、経口血糖負荷試験(OGTT)を行うと陽性の方も多いようです。

鍼灸は古くから糖尿の方にも効果があり、どこの鍼灸院でも行っている事実があります。こんなことからもPCOSに鍼灸が良いのかもしれません。

だいたい週に1回以上の密度の治療を3ケ月~5ケ月継続していくと、いったん効かなくなったクロミッドでまた卵胞が育ってくるとか、中には自然に妊娠する方も珍しくなく、鍼灸が効果を現す実感があります。

個人的な話ですが、月経不順があり、結婚前の一昨年から当院に通っていた親類がいました。詳しく話を聞き基礎体温表も確認すると多嚢胞性卵巣が強く疑われ、根がまじめで素直な女の子でしたので、すすめると結婚するまで根気強く鍼灸を続けていました。

結婚後もなかなか子宝に恵まれませんでしたが、私と相談の上、嫁ぎ先の近くの病院でクロミッドを使ったタイミング法を行ったところ、その周期に妊娠し、この年が明けるともう出産予定となります。

月経が不順で多くは間隔が遠い、というのはまだ軽めのPCOSで、前述しましたが注射やピルなどでリセットすると普通に排卵する周期に入ったりするものが多いですが、重症になると平気で3ヶ月以上も月経がなく、薬が効かない、注射もなかなか反応しないというよな重症もあります。

またせっかく妊娠しても、高アンドロゲン(男性ホルモン)下で子宮内膜に問題があると考えられ、流産も非常に多いです。

この話は昨年12月に、福島医大産婦人科学教室の山口明子先生にもお話しいただきました。

この時私は鍼灸の担当としてお話しさせていただきました。

日本伝統医療看護連携学会で話したこと・ミニセミナー

11月27日に仙台の第4回日本伝統医療看護連携学会のミニセミナーでお話しした内容について書きます。

ミニセミナーの持ち時間は1時間。

いつも全国の鍼灸師会さん(南は九州佐賀県、北は青森県)で講演を頼まれる時は実技を入れて3時間でお話ししています。

妊孕性を高める脳・報酬系の賦活作用の鍼灸、子宮内膜症など不妊体質の改善、多嚢胞性卵巣などの排卵障害、高齢不妊への対応など、また男性不妊全般の内容にすると、3時間×2回くらいのボリュームになります。

今回は1時間。しかも看護師さんなどの職種の方が多く、自分でできるセルフケアも紹介してほしい、となりました。

というわけで、内容は自然に子宮内膜症関連に。

まずは女性不妊篇

ヨーロッパ生殖学会の会長も務めた、ハンス・エバース博士の研究で、不妊患者における子宮内膜症の罹患頻度を挙げたものです。

不妊症=日本式でも1年の不妊期間の女性は、70%近くが子宮内膜症の罹患の確率があるとか。年々増加しているように見えますが、これは画像診断が進んだため発見が多くなったということだそうです。

サントリー医学研究所と京都大学の共同研究のスライドを示しました。

子宮内膜症の主訴は強い月経痛です。このせいで医療機関を受診するのは2割に満たないそうで、大部分は痛み止めなどの市販薬を常用してしのいでいるそうです。

この『痛み止めの常用』が、不妊の原因になる話。

卵子めがけて精子が泳ぐ『道しるべ』に、子宮収収縮を促し痛みの原因になる発痛物質であるプロスタグランジンのひとつが役に立っています。一方、痛み止めの薬の大半はこのプロスタグランジンの産生を抑制します。

つまりプロスタグランジンのブロックは、不妊の原因になるということです。

セルフメディケーションが悪い方向に進む、ということですね。

鍼灸や、自宅灸でセルフケアすると月経痛は改善しやすく痛み止めを使わないことで妊孕性を高めることにつながると思います。

看護師さんなど医療職の方々が多く聴講されていましたので、子宮内膜症の方の腹水が妊娠に及ぼす影響の研究をお示ししました。

数々の炎症性サイトカインが子宮内膜症を持った方の腹水中に存在し、妊孕能を下げ妊娠を妨げます。

またこうした腹水中の炎症性サイトカインを産生するのは、日本でも子宮内膜症のグレード分類に使われるアメリカ生殖医学会の分類の1~2期の軽症ほど多い、ということです。

軽症の子宮内膜症でも、妊孕能に大きく影響する、ということです。

実技では、看護師で鍼灸学校在学の学生さんにモデルをお願いし、ツボ2つを使った自宅灸のデモンストレーションを行いました。

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続いて男性不妊篇。

すでに子供がいるカップルの団男性の精液所見は、WHOの基準をはるかに超えた1ml中で8200万。

しかし同じ研究者(岩本教授・現国際医療福祉大)の未婚男性の平均は5000万くらいで、4人に1人は4000万以下だったそうです。

精液所見が落ちると自然妊娠するまでの期間が長くかかるという報告があります。

男性不妊に対する治療は、例えば高度な精索静脈瘤があれば手術適応となりますが、実際は男性不妊の治療では決定的なものは少なく、補中益気湯などの漢方薬や亜鉛などのサプリメントによるものがほとんどです。

そこで当院で行っている鍼灸治療による精液所見の改善をお示ししました。

動画でも2例ほど紹介しました。

そのうちの1例を。

妊活・不妊治療と喫煙、タバコの害(1) 卵巣・卵子へのダメージ

ぐっと少なくなった喫煙率ですが、残念なことに不妊治療を受けている方に喫煙されている方がいらっしゃいます。

喫煙が健康に良くないことはご存じで喫煙されているようですが、妊活、不妊治療には大きく足を引っ張り、せっかく妊娠しても流産死産の原因になり、また早産の原因になることをしっかり書いて行きたいと思います。

1)卵巣、卵子へのダメージ

タバコに含まれるニコチンやタール、その他多くの化学物質がエストロゲンやその他の卵巣由来のホルモンを抑制し、また卵子の持っている遺伝子異常を引き起こします。

つまり、閉経が早くなり(多くのデータでは4年早いという)、受精しなかったり、受精しても早期に成長が止まる受精卵になる恐れがある、ということです。

もちろん、胎嚢が確認出来た後の流産も多くなります。

男性の喫煙は、精子の遺伝子異常・DNA損傷を引き起こし、不妊ばかりでなく早期の流産に関係するといわれています。

(出典)日本医師会雑誌 平成20年4月号 第137巻 第1号

しばらくこのシリーズが続きます。

 

男性不妊の基準について考える 第4回開業塾の内容から

10月30日(日) 午後から当院で開催した開業塾の内容を書いてみたいと思います。

不妊症の約半分の原因は男性にあることは周知のことと思います。

そこで『男性不妊』の基準を挙げてみたいと思います。

WHO(世界保健機構)で、『これ以下だったら自然妊娠はまず不可能』という、最低基準が昨年改訂されました。

今まで広く全世界で使われていた基準は2010年版で、最新版は2021年版。

なぜに、精液の基準がこれくらいの数値ですよ、という由来は、過去の記事で書いています

WHO精液基準2010年版と、2021年版の比較は下のスライドとなります。あまり変わってはいません。

当院で挙児を望む患者さん(多くは女性)の初診時に、ご主人の精液所見について尋ねると、ほとんどの方は『医師に大丈夫と言われました』とか、『ちょっと少ないかもと言われた』とかあまり正確に答えられない方がほとんどです。

実際に妊娠したカップルの男性の精液所見はどうなっているかという調査報告があります。

聖マリアンナ医科大学の岩本教授(現・国際医療福祉大学教授)の調査報告では、全体で1ミリリットル中の精子は平均1億匹、運動率も56%くらいであったということです。

しかも、精液濃度の中央値は8200万匹だったそうです。WHOの基準ですと1500万とか1600万ですが。

いかがでしょうか?

WHOの精液基準を満たしているからと言って、全く安心できないことがわかると思います。

精液所見が低ければ、妊娠に至るまでの期間が長くかかることが大いにあり得ます。

当院では事前に検査した精液測定の数値を確認し、必要があれば当院へ持ち込んでいただいた精液を再測定しています。

卵子を調べることは大変ですが、射精した精子を測定することは鍼灸院レベルでも可能です。

妊娠初期の鍼灸治療について

当院での不妊治療・妊活治療で妊娠された方へは、20歳代、不妊歴が1年程度などで自然妊娠された場合などは、妊娠第12週くらいで鍼灸治療を終了します。

これは、流産などは無治療で妊娠された方と差異はないと考えているためです。まぁ鍼灸を続けても続けなくても、心配ないでしょう。

ただし、つわり症状や肩こり腰痛などのマイナートラブルがあれば、必要に応じて1週に1回~2週に1回程度の鍼灸治療をすすめる場合もあります。

35歳以上、また体外受精などで妊娠された場合は、妊娠第12週までは1週に1回の治療を続け、妊娠第12週以降は20週まで、2週に1回の治療をおすすめしています。

体外受精で授かった場合、多くはそれまでさまざまな治療をステップアップで進めてきた方が多く、また年齢も高くなっています。

体外受精で、例えば40歳で妊娠されると流産率が40%を超えるという報告もあります。

初期の流産は7割が偶発的な染色体異常といわれ、そもそも鍼灸で流産予防はできませんし、可能だとすればそれはそれで問題です。流産も必要あって起こる場合があるからです。

初期の流産の3割は黄体機能不全などホルモン環境などに原因があるそうで、これは母体が健全であれば防げるものと考えます。鍼灸の出番があるところです。

 

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もう数年も前の話です。

極端な肥満があり、年齢も40歳以上。それで体外受精で妊娠したら妊娠高血圧になった方がいました。ハイリスク妊娠で危険なので、妊娠後も管理的な鍼灸を続け、第27週までがんばって持たせて帝王切開で分娩し、児はNICUへ。

たまにランチを食べに行くお店で、かわいい女児が『ただいま~』と元気にランドセルを背負って飛び込んで帰ってきます。
ママも頑張って産んだ子供。

まだ顔つきにNICU卒業生のようにか弱いところが残っていますが、元気なかわいい女の子です。

妊娠されても、もし年齢が高かったら、不妊歴が長かったら、もうちょっと鍼灸を続けてみて下さい。

来シーズン分の『原坊の朝顔の種』確保しました(^^♪

9月中頃から満を持して体外受精や人工授精に臨んだ方が、続々とご懐妊いただき、大部分の方が育てていた当院で配布している『原坊の朝顔』。

中でもとりわけ妊娠運の強い種、佐藤さんちの『原坊の朝顔』の種をたくさんいただきました。

佐藤さんは東京にいる息子さんのおうちに、どうしても一人でもいいからお孫さんを授かってほしいと熱望していたそうです。

そりゃそうですよね。せめて一人は欲しい。私もわかります。

それで、当時、人づてに当院から原坊の朝顔の種を入手し、庭に蒔いて植えたそうです。

そして花が咲くころだったか。40歳を過ぎたお嫁さんがご懐妊したのだとか。しかもしかも、初めてのお子さんだとか。

それがご縁で、佐藤さんは熱心に当院に通ってめまいや膝痛を治療して治したのでした。

当院で治療して妊娠したのではなく、原坊の朝顔だけで妊娠した佐藤さんの念の籠った朝顔の種。

これは強力ですね。しかもお茶わん1杯分以上あります。

これを来シーズンは当院の患者さんにお分けしたいと思います。

佐藤さん、、、珍しい姓ではないのでそのまま書きました(^^♪

化学流産・化学妊娠について

9月も、もうもうじき終わり秋も深まる10月になります。

不妊治療、妊活治療をされていると、『化学流産(かがくりゅうざん)』に時々遭遇します。

妊娠の超初期に赤ちゃんが入る『胎嚢(たいのう)』を超音波による内診で確認出来て、正常妊娠(臨床的妊娠)と診断されます。

一方、胎嚢が確認できなくとも、尿検査などで妊娠反応が陽性になった場合で、その後胎嚢が確認できないまま月経のように出血があり、妊娠反応も消失した場合を化学(的)流産といいます。また出血して妊娠反応が消失するまでを、『化学(的)妊娠』ということもあります。

正確には妊娠の回数や流産の回数には数えないものですが、精子と卵が出会って受精し、受精卵(胚)から孵化(ハッチング)して、しっかり着床できずにそこで力尽きたものと考えられ、原因は受精した際の偶発できな異常だったと考えられています。

ヒトは膨大な情報を持った遺伝子をつなぐため、受精時には異常が出やすいといいます。

こうした化学流産は大変起こりやすく、妊活を意識している女性であるから気が付いたとも言えます。

大変残念な事象で諸行無常を感じますが、妊娠し出産しての卒業が一歩近づいたとも言えます。

 

P4(プロゲステロン)が高く、胚移植に進めないとは

たまにはお仕事の話を。

体外受精を行うには、人為的に卵巣から卵を採り(採卵=”さいらん”=といいます)、同時に採取した精子と受精させ、3日~5日くらい培養して卵子を成長させ、子宮が受精卵を受け入れる最適な状態のときに、子宮に受精卵を入れる(胚移植=”はいいしょく”)を行います。

その際、採卵を行うには通常、何らかの薬や注射を行って排卵誘発を行います。勝手に排卵しないように、卵が成長してきたら、排卵を抑制しながら卵が成熟したころを見計らって、超音波で内診しながら特殊な注射針を使い、卵を吸い取ります。

なお、卵は受精してから『卵子』と呼びます。受精前は『卵』と呼びます。

そうすると、鶏卵でも有精卵は『卵子』といわないと、かもです。

脱線しましたが、排卵誘発を行う際に、効果的に卵は育って採れそうかどうか、月経開始日3日目あたりで血液検査を行います。

月経開始ゼロ日目から数えるので、月経日が治療周期開始の基準日になります。また月経開始3日目は、卵巣を働かせるホルモン(FSH=卵巣刺激ホルモン)や、成長しかけの小さな卵から出てくるホルモン(E2=エストラジオール=エストロゲン=女性ホルモン)を測ります。

また参考的に、P4(プロゲステロン=黄体ホルモン)も測ります。

育った卵子は別名を『胚(はい)』とも呼び、子宮に戻すことを胚移植(はいいしょく)といいますが、特に培養5日目付近以降の胚盤胞(はいばんほう)と呼ばれる、子宮に着床する寸前の卵は、子宮が受け入れて着床できる期間が大変短く、半日もありません。

そのため、卵を育てる判断を行う排卵誘発の基準日(月経開始3日目)以外に、胚移植のためにも基準日を設けてその絶妙なタイミングを推定します。

それにはP4=黄体ホルモンを測ります。

P4が高すぎれば排卵した(と同じ)、基準日を過ぎてしまい、着床に最適な胚移植日を想定できず、無理に移植すればせっかくの良い胚が無駄になってしまうことがあります。

もし胚移植直前にP4が高すぎれば、その周期は胚移植せず、次の周期以降にまた採血して移植日を決めることになりますが、これが何度も続く方がいます。

人により排卵日が早い(月経周期が28日より早い)方がいて、その場合は採血する時期を早くするなどして、胚移植日も早くするようです。

問題は、月経開始日3日あたりでP4が高い場合は、前の周期で排卵しそこなった遺残卵胞の影響や、卵巣の老化などが疑われます。

胚移植直前の測定でP4が高くて胚移植キャンセルというのは、残念ではありますが、また最適な時期を選んで移植することで良い結果を得られる場合が多いですので、あまり心配はありません。

D3あたりのP4の基礎値が高いような場合は、鍼灸治療などで卵巣の若返り治療を行っていくと良いようです。